焙煎の神髄(本編その2・温め)

2020.02.18

『焙煎の神髄』
<温め>
コーヒーの焙煎と考えますと、どうしても、焼くか煎るというイメージ、もしくは現在では、どうにかして早く大量生産するために、高温で燃やす寸前までにして、後は水を掛けて冷やして出来上がりと言う、とても乱暴な焙煎(これを焙煎と言うのだろうか?)まで横行していると聞きます。

只、勿論、それはそれ、時代とともに、また、利益を追求すれば色々な方法が生まれてくるのは至極当然の事ですので、別に否定する気はございません。

それでも、私の焙煎に対する姿勢とは大きく異なりますので、何の興味も持てないのも事実ではありますが。

「急がば回れ・・・」そんな言葉が頭に浮かびます。鈴木の考える美味しいコーヒーを生み出す方法は、そんな気持ちを持つところから始めて頂きたいです。

写真は、古臭い私の焙煎機(8㎏釜・直火焙煎機)のアナログ温度計です。現在の焙煎機では、焙煎する釜の中の温度を測るデジタル式の温度計が付いているものが殆んどのようですので、これは、排気の温度を測るタイプの温度計という事になります。

デジタルでも、アナログでも、勿論、温度計は付いていた方が目安になりますのでありがたいものですが、実際の焙煎は豆との対話で行う物ですので、それらに頼り過ぎる現在の焙煎方法には、私は異を唱えます。計器は有ったら有ったで良いけれど、「焙煎がうまくいかない・・・」と言って、私に相談に見える方のほとんどが、焙煎中の豆を見ることなく、計器ばかり見ている人が多いように感じます。

『数字じゃなく、会話をしよう!』さぁ焙煎します。

焙煎の専用釜を使用する場合は、まずは釜を温めます。1キロ釜、2キロ釜、3キロ釜、4キロ釜、5キロ釜、8キロ釜、10キロ釜・・・、個人で使用するとしますと、大体このくらいのサイズの釜でしょうか?
私が使用しているのは、メインで8キロ釜、前に使っていた4キロの釜が予備で有りまして、更に、600g迄焙煎できるサンプルロースターも、焙煎指導する際等に用いています。

焙煎の釜は、安いもので100万~300万円くらい、高いものにつきましては1千万円位するそうですし、サンプルロースターでも、現在は20万~30万円くらいはするようですので、そんなにお安いものではないと思います。
なので、焙煎をご商売として始める際には、店舗所得や内装等々、それ相応の金額が掛かるわけですので、きちんとした腕をもって、すぐに廃業してしまうようなことが無いように始めるべきなのです。

そんな大事な焙煎釜で、コーヒー豆を煎る為に、釜を温める余熱と言う作業は、通常20分~30分くらい行います。火加減や時間は釜によってまちまちでしょうが、私の場合、8キロの釜でガス圧計のメモリは0.5~0.6、ダンパーと言う排気の調節機能が付いているようでしたら、メモリ1程度の閉め気味にして行います。

温まりましたら、さぁ、生豆を投入しましょう!

釜のリミットで考えて半分くらいの分量で始めたとします。(8キロ釜なら4キロ、4キロ釜なら2キロ)私の場合は、全ての火を消した状態で投入しますが、口火が消えないタイプや、火を全部消すのは、せっかく釜を温めたのにもったいない・・・と考える方は、温めた時のままの弱火で投入されても良いと思います。

どの形で生豆を投入したとしましても、温度計があるとすれば、その温度は下がってゆきます。
只、私は温度が下がるというよりも、冷たかった生豆が、ほんのりと温まって行くと感じる瞬間になっています。
焙煎業界において、多くの先生たちが唱える、いわゆる「下げ止まり・・・」という所ですが、私の考える『ほんのり温まる・・・』と言う作業の時間は、大凡1分くらいでOKです。

その際、サンプルスプーンがあるようでしたら、中の生豆を少し取り出して触ってみて下さい。きっと『ほんのり』と、温まっている筈です。

生豆が温まったら(温度が下げ止まったら)火を点けます。その時の火加減は、私の8キロ釜ですと0.7~0.8位になります。
「なんだ、温めとか言って、やっぱり焼いているんじゃないか」そう思われるかもしれませんが、私の意識の中では、あくまで焼いているという感覚ではなく‟温めている程度の火加減”と言う感覚です。

生豆の外から熱を加えて行って焼き色を付けるのではなく、焙煎するための準備運動、あくまでも生豆を温めるための作業です。この作業が、私はとても大事と考えています。

では、温まったという作業はどうなったら終わるのでしょうか?・・・、その時の温度は何度?・・・、時間は何分何十秒?・・・、そう思われることでしょう。

『温度やら時間やら・・・、そんなもんどうだって良いんだよ!』焙煎を教えていて、そう言うと皆キョトンとします。(当たり前ですけどね・笑)

焙煎する機械によっても、豆の種類や質によっても違うし、同じ機械で同じ種類の豆を焙煎したとしても、季節や、その日の天候によっても微妙に変わるし、『数字やレシピに頼るのはやめよう!』そう言うと、「じゃぁ、どうすれば良いのですか?」そう言われます。(これまた当たり前ですよね・笑Ⅱ)

『豆に聞いてみよう!』そう私は言い、サンプルスプーンで焙煎中の豆を何粒か取り出して、ステンレス製等、丈夫なトレーの上に取り出し、熱いので火傷には注意しつつも、自分の爪で、その生豆の背をグッと押してみて、豆の表面が柔らかくなり、爪の跡が残る程度までになったら温めは大凡OKです。
(温め作業を確認する際の為に私は右手親指の爪を少し伸ばし気味にしています)

そして、その時の温度や時間を、書き記すか、記憶するようにします。これがレシピになるのです。

レシピが有って美味しいものが出来るのではなく、只々必死に美味しいものを作って、それが出来た時、記憶を逆算したものがレシピになるという考え方です。

ちなみに、私の8キロ釜で4キロ焙煎していたとして、コロンビアやキリマンジャロ等、ウォッシュドタイプの豆でしたら、あくまで大凡ですが、時間は5分~7分位、温度は、アナログで160℃~170℃位だったと思います。
3~5キロの釜で、半分くらいの生豆を焙煎したとしますと、多分、時間は同じ位と思いますが、温度は、もう少し低くなるかも知れません。

釜の大きさやタイプによって、時間も温度もまちまちですが、爪でグッと押して表面が柔らかく感じる程度・・・と言う感覚はどれでも一緒です。

さぁ、温まりました!準備体操が済んだ形です。本日のレクチャーはここまで。

次は、蒸し焼きに入ります。ご清聴ありがとうございました‼