東京のベッドタウン、千葉県我孫子市にその店はあった。

LIFE WITH ROASTER

東京のベッドタウン、千葉県我孫子市にその店はあった。

The Coffee Club M’s Company。

ここに、焙煎職人と謳われる男が、いるはずだ。

そして、その男の話に耳を傾ければ、珈琲がさらに深く味わえるに違いない。

こじんまりとした店構え。しかし、店先まで珈琲の甘い香りが広がっている。
ガラス扉を開けると、琥珀色に輝くRoasterが、音を立てて僕たちを迎えてくれた。

そして、所狭しと積まれた珈琲豆の向こうに、その男はいた。

薄紺色の作務衣に、雪駄。鈴木正美、40歳。

職人と呼ぶには、まだ若い年齢であるが、
その佇まいは、有無を言わせぬ「何か」を感じさせる。

一体、彼はどんな人生を、送ってきたのだろう。

温かみのある、手作りのインテリア。

店の隅で穏やかにまどろむ、ゴールデンレトリバー。

ここは、外の喧騒がまるで嘘のように静かな、珈琲の城。

そう、鈴木正美の夢をかなえる「城」である。

そしてその店先には「自家焙煎」と大きく書かれた看板が、かけられていた。

レジスターの横に整然とディスプレーされた、多彩なオリジナルブレンド。

その1つ1つには、個性豊かな名前が、付けられていた。

「天使のささやき」「幸せなる時に」「夕映え」・・・

焙煎のアーティスト、鈴木正美は、一体どんなことを考えながら、これらの「作品」を作ったのだろう。

来店した客は全て、夫婦2人、店先まで見送り、
年配の常連客が訪ねてくれば、駅まで迎えに行くという。

多忙を極め、精神的、物理的に余裕がないであろう彼のそんな心遣いは、一体どこから来るものなのか。

その答えは、店の壁に飾られた、「感動」と書かれた張り紙にあった。

今、僕たちの前に、入れたての珈琲が運ばれた。
1日に、何度でも楽しめるようにという思いが、ブレンドされた珈琲。

その芳醇な香りと味わいには、焙煎職人・鈴木正美の生き様が感じられた。

珈琲とともに歩んできた20年。

そして彼は、これからも、100グラムたった400円ほどの珈琲に、
限りない夢を与えていくに、違いない。